保存情報第83回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 額田寺野の大楠と薬師堂 北野哲明/北野建築計画工房
薬師堂 中央に龍、左右に獅子、西側に象鼻 大楠
■紹介者コメント
 国道1号線を本宿から同473号線に入り約8km、つづら折れの山道に差し掛かる手前に、推定樹齢1000年の楠と、覆い尽くされるように佇む薬師堂がある。
 807年の弘法大師創建と伝えられる真言宗高野山派寺野山正法寺の、変形三間四方のお堂である。1640年に修造されたと記される棟札が残るが、現在の薬師堂の建築時期は特定されていない。本尊の薬師如来など極彩色の仏像数体が安置されている。
 ここを訪れると、まず、県指定天然記念物の大楠に精神の高揚を覚え、全面彫刻と化した透かし蟇股の龍、虹梁木鼻の獅子と象、手鋏の牡丹など、お堂の精緻な彫物に心を奪われる。そして思わず極彩色の薬師様に手を合わせる。信仰の一連の手続きが成立している。
 さて、棟札を正とすれば、日光東照宮造営時期と重なる。これら一連の精緻な彫物は日光徴用前の仕事か。一見、古さを感じない。とすれば、半田の山車を飾った彫物師の仕事か。彫物師集団探しの想像は膨らむ。弘法大師は大楠より前の時代である。お堂が先か、楠が先か。あるいは、大楠が2代目か。また、建物の年代同様、謎解きの夢は広がる。

所在地 岡崎市夏山町寺野ミヤマ
建設年 不詳(寛永17 年の棟札あり)
資料提供 新編岡崎市史額田資料編編さん事務局 佐美正子氏
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 美濃市の町並み 原眞佐実/原建築設計事務所
 


<重要伝統的建造物群保存地区>
所在地 岐阜県美濃市魚屋町の全域、相生町、泉町、加治屋町、俵町、常盤町及び本住町の各一部:約9.3 ヘクタール
選定年月日 平成11 年(1999 年)5 月13 日
旧今井家住宅 外観 小坂家住宅 外観
旧今井家住宅 帳場より格子越しに街路を観る 旧今井家住宅 蔵群
■紹介者コメント
 岐阜県にある四箇所の重要伝統的建造物群保存地区のうち、美濃市に現存する古い町並みの紹介です。長良川畔の小倉山城下南に築かれた美濃市の前身「上有知(コウズチ)」の町割りは、東西方向の二筋の街路と南北方向の四筋の横町からなる、目の字型が特長となっていますが、長良川に開かれた「上有知湊」(コウズチミナト)によって、和紙を中心とした経済活動が盛んになり商業都市としても繁栄しました。この地は丘陵地の為、水害等には強いのですが水利に乏しい為、火災に対しては非常に弱く、大惨事に見舞われることもしばしばでした。
 そこで考えられたのが屋根の両端に防火壁の「うだつ」を上げるなどした様々な防火対策でした。このうだつの意匠には建築当時の時代性や財力の違いを見る事ができます。国の重要文化財の「小坂家住宅」は安永元年(1772年)ごろの建築で、二階建て切妻屋根、桟瓦葺の住居部分は、この地方では非常に珍しい起り屋根と、鬼瓦を持たないうだつ軒飾りを持つ建物としても特異な外観です。造り酒屋として今現在も営まれています。
 また、美濃市の指定文化財で美濃資料館にもなっている「旧今井家住宅」は、うだつ軒飾りでは最も古い形式を残しているのが特長ですが、1700年代末に建てられ1800年代初期に増築されたものとみられています。昭和16年ごろまで紙問屋を営んでいたこともあり、その殆どが現存している建物には、江戸時代の商家の様子も再現されているので、往時を偲ぶには最適な町家です。()