保存情報 第105回
登録有形文化財 鏡岩水源地 旧エンジン室・旧ポンプ室 澤村喜久夫/伊藤建築設計事務所
全景(手前が旧エンジン室、奥が旧ポンプ室) 旧エンジン室 外部ディテール 旧ポンプ室「水の体験学習館」内部
■紹介者コメント
 岐阜市の上水道は「名水百選」(1985年・旧環境庁)に選定された長良川の伏流水を原水として供給されている。昭和5年(1930)、金華山ふもとの鏡岩に同市最初の水道施設となるエンジン室とポンプ室が建設され、水源地の井戸からくみ上げ、瑞龍寺山(通称:水道山)の配水池に圧送し、市南部地区に配水を開始した。
 2棟はいずれも鉄骨造平家建、切妻桟瓦葺で、外壁はコンクリートに長良川の玉石を埋め込み、四隅には花崗石の隅石が積み上げられている。また正面(妻面)はアーチ型の入り口と上部に楕円窓を設け、両脇にアーチ窓を並べ、螻羽(けらば)は外壁から突き出した方杖が深い出を支える同一のデザインとしている。
 一方、柱の構成や側面の窓廻りのディテールには相違が見られる。旧エンジン室では、鉄骨ラチス柱を外壁の外側に配置している。また旧ポンプ室の丸窓は花崗石と木の二重枠であるが、旧エンジン室のそれは花崗石の代わりに玉石を並べている。山小屋を思わせるユニークな意匠と、手作業で丹念に積み上げられた玉石の外壁には、当時の人々の水道創設に対する情熱が感じられ、今でも親しみやすい建物である。
 これらの建物は昭和40年代(1970年前後)まで使用され、現在はそれぞれ「水の資料館」(平成14年開館)、「水の体験学習館」(平成17年開館)として生まれ変わり、市民に公開されている。また旧エンジン室は、金華山山中の岩盤をくり抜いて造られている鏡岩配水池の導水トンネルの管理用出入り口も兼ねている。
所在地:岐阜県岐阜市鏡岩408-2
登録番号:旧エンジン室 21-0037
     旧ポンプ室 21-0038
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 各務の舞台(村国座) 澤村喜久夫/伊藤建築設計事務所
北面(客席入り口) 舞台・花道・桟敷席
南面(舞台背面・奈落) 皿回し式回り舞台の奈落
■発掘者コメント
 各務(かがみ)の舞台・村国座は、壬申の乱の英雄「村国男依」を祀った村国神社の境内にある農村舞台で、江戸時代末、庄屋長縄八左衛門によって計画され、彼の他界により一時中止されていたが、明治6年(1873)着工、同10年完成、同15年こけら落としが行われた。
 村国座は屋内に客席を備えた「劇場型」舞台で、客席は板張りの平土間席と東西に設けられた二階造りの桟敷席からなり、500人程度が収容できる。客席は天井を張らず小屋梁を現し、その上部に無双窓を設けている。
 舞台の規模は間口6間4尺(12.10m)、奥行き5間半(9.98m)で、中央には直径2丈4尺9寸(7.54m)の回り舞台がある。回り舞台は心棒を固定し床部分だけを回転させる「皿回し式」で、農村舞台の中で最大規模を誇る。舞台正面には彫刻を施した虹梁を架け、その上に飾り棚と高窓を設けるなど、額縁を際立たせる意匠としている。舞台上手袖に太夫座を設え、上部には竹を組んだぶどう棚を吊り下げ、下手には本花道、上手に仮花道、本花道の突き当たりには鳥屋を設けている。
 戦後の生活の変化や娯楽の多様化によって全国各地の農村歌舞伎が衰退し、芝居小屋が解体された中で、村国座では1960年代に歌舞伎の役者を大人から子どもに切り替え、今でも10月中旬の祭礼に各務おがせ町の3地区の児童が毎年交代で子供歌舞伎を奉納している。
 平成18年(2006)から21年にかけて「平成の大修理」が行われ、舞台照明や音響設備を備え、歌舞伎以外の公演にも幅広く利用できるようになった。これからも生きている舞台として活用されてほしいものである。

所在地:岐阜県各務原市各務おがせ町3-46-1
指  定:国指定重要有形民俗文化財     (1974年11月19日)
参考資料:各務原市ホームページ