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『境界空間』
かつての日本家屋ではその気候風土から、軒を深く取り、濡れ縁を設けたりしながら内と外を柔らかく区切っていました。庭との間に生じた、内でも外でもなく感じられるその境界空間は、単に通風や採光のための開口部にとどまらず、人と人とのコミュニケーションの場であったり、くつろぎの場としても機能していました。
街道沿いの商家の店構えを構成する格子も境界領域を形成するエレメントと言えます。商いのスペースあるいは私のスペースが、いきなり外部である公道に面する場合の境界の有り方です。ここでは通風を犠牲にすることなく、僅かに採光を採りながら内部を緩やかに遮蔽しています。また、内からはスダレ効果により、明るい外部(往来)の気配を知ることが出来る境界空間を形成しています。
これらは、何れも内と外とを隔てる境界領域のデザインと言えます。
家の内部にあっても領域の境界を調整する様々な仕掛けがありました。襖や障子などの建具は室の繋がり具合を微妙にコントロールできるもので、フレキシブルな空間の利用を可能にしていました。
外部では、敷地と道路の境界(私と公の境界)の作り方に様々な工夫がなされ、街並みの有り方や表情を構成する重要な要素となっていました。
和の空間にあっては、物理的な仕切を作らず、我々が持つ文化固有のサイン(象徴作用)で場あるいは領域を示すという方法も存在しました。
現在、生活は大きく変わり、多様化しました。現代の生活空間を見つめ直し、そこに有効な「境界空間」を取り込んで下さい。かつての精神
(和の遺伝子)を生かすことにより成立する豊かな居住空間の提案を求めます。
文:審査委員長 尾崎公俊
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